大判例

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東京地方裁判所 昭和38年(合わ)151号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本件公訴事実は、

被告人は、元の勤務先である東京都渋谷区大和町一五番地渋谷駅前会館九階クラブニユーハイツの宿直員を殺害して同クラブの売上金を強奪しようと企て、昭和三八年四月二九日午後三時頃から右ニユーハイツ内に潜んで機を窺い、翌三〇日午前五時三〇分頃同所客室において、同所に宿直のため就寝中の加藤峯治(当二二年)の頭部等を所携の金槌で殴打し、この物音で眼を覚ました野島勝栄(当二五年)の胸部等を所携のナイフで突き刺し、その反抗を抑圧して金員を強取しようとしたが、他の宿直員の連絡により急行した警察官に逮捕されたため、右加藤に対しては約一〇日間の加療を要する顔面刺創及び打撲、上下門歯破損等の、野島に対しては全治約一ケ月の加療を要する左胸部挫創、外傷性気胸、左肺臓損傷、左前腕部挫創の各傷害を負わせたのみでその目的を遂げなかつたものである

というのである。

(中略―証拠により右事実を認める)

しかし、被告人の本件行為当時の精神状態について考えるに、<証拠>によれば、(イ)被告人の実母が精神分裂病に罹患していること、(ロ)被告人は従来著しく信条の不安定な生活をしてきたもので、なんら深刻な原因なくして自殺を企てたこともあること、(ハ)被告人が給料を前よりも多くとるようになつたにかかわらずかえつて本件強盗を決意するに至つた動機につき、被告人は「ゴールデン赤坂に勤めるようになつて今までにない給料をとるようになつてから、田舎の母と姉のことが思い出され、家に帰りたくなり、将来家を建てたりするため金を持つて帰りたかつた」とか「奪つた金は株を買つて増やそうと思つた」とかいい、また、被告人が顔見知りの二人の宿直員のいることを知りながら覆面もせず元の勤務先へ強盗に入つた事情につき、右二人の宿直員を眠つているまま又は顔をみられないうちに次々ハンマー一挺で気絶させようとしたのであるとか失敗したときのことを考えてなかつたとかいい、なお、金庫内から金を盗もうと考えたというにもかかわらず金庫のあけ方も知らなかつたというなど、被告人の思考過程が異常、非常識、無計画であることが認められ、なお、(ニ)被告人の当公判廷における態度は終始情動を示さず感情の平板を思わせるのであるが、以上認定の(イ)ないし(ニ)の諸事実ならびに鑑定人秋元波留夫作成の鑑定書および証人秋元波留夫の当公判廷における供述を総合考察すると、被告人は本件行為当時思考の飛躍性、非現実性、意欲減退、感情鈍麻、道徳感情の低下などの異常な精神状態にあり、被告人の本件行為はこれらの異常な精神状態にもとずく病的行為であり、当時の被告人の精神障害の程度は自己の行為の理非善悪を弁別する能力が欠如した状態であつたと認めるのを相当とする。(飯田一郎 丸山喜左工門 田崎文夫)

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